Movie Journal

映画と国内外ドラマの鑑賞録です。基本的にネタバレ。

パレードへようこそ (93pt)

2014年 イギリス ドラマ

1984年サッチャー政権下のイギリスでは炭鉱夫たちのストが起きていた。ウェールズ地方でのストを支援したロンドンのゲイ・レズビアン炭鉱夫支援の会(Lesbians and Gays Support Mainers)の実話をもとにしたお話。

 

ストーリーについて

実話ベース

この映画のベースになっているのは、イギリス・ロンドンを拠点に活動したLGSMという団体です。この映画の内容はいたって真面目で、差別を受けていた性的マイノリティが「炭鉱夫の敵はサッチャーや警官、俺たちと一緒だ!」と炭鉱夫支援を始めるお話です。

性的マイノリティ

当時AIDSが流行し始めていたこともあり、ゲイやレズビアンはかなりの差別や偏見を受けていたであろうことは安易に予想できます。作中でも、「21歳以下はゲイ禁止」という法律があったことが語られていました。

イギリスなどヨーロッパやアメリカというのは、日本と違ってキリスト教徒が非常に多い国。(今ではイスラム教徒も多いんだっけ) キリスト教の中でもカトリック教会の数も少なくはなく、そこでは「同性愛は神が造られた自然の摂理に反するもの」的な感じで厳格に禁じられています。この背景がそもそも日本との大きな違いだと思います。
日本ではキリスト教徒といえばいわゆる少数派、大多数の人間が軽〜い仏教とか無宗教的な考えを持つ日本と、ヨーロッパやアメリカは違うのです。同性愛者への差別意識・偏見というのもベースが違っています。
まあ日本では宗教云々以前に「世間体」というものが人々の頭の中の大部分を占めていますので、カミングアウトや権利の確率が難しい社会であることに変わりはありませんがね。

LGSMの支援活動

前置きが長くなりました、そんな時勢の折、炭鉱夫支援を始めたLGSMのメンバーたち。しかし頑張って集めた募金を寄付しようと炭鉱夫労働組合に連絡をするものの、団体名を出したところで取り合ってもらえない等困難が続きます。そこで彼らはハッと閃き、団体を通さずストを行っている炭鉱夫たちに直接寄付を持ちかけることに。電話に出た炭鉱委員会のおばちゃんがLGSMの意味をわからずに「分かりました」と言っちゃったという偶然も重なり、支援活動は盛り上がっていくのです。

この映画のメッセージ 

この映画で語られているのは「性的マイノリティに対する差別を無くそう」とかそういうメッセージではありません。彼らに対する同情でも慈悲でもない。この映画で語られているのは、ただどんなタイプの人であれ手を取り合い、肩を組んで連帯することで大きな力になるということ。序盤の炭鉱夫組合のダイがゲイバーでする演説の「自分より遥かに巨大な敵と戦っている時、どこかで見知らぬ友が応援してると知るのは最高の気分です」という言葉、これを表現している映画だと感じました。
そして彼らの起こしたムーヴメントと、その過程を後に残しておくための映画かと。この歴史に埋もれてしまっていたお話を掘り起こしてきて映画化にまでこぎつけたスタッフ陣は本当にすごいと思います。

 

キャストについて

LGSM

LGSMの中心人物をマーク・アシュトンを演じたのはベン・シュネッツァー。彼はもともと舞台俳優として活動されていた方のようで、2013年から幾つかの映画に出演されています。
家族に自分がゲイであることを隠しながらLGSMに参加するジョーを演じているのはジョージ・マッケイ。このキャラクターは映画化に際して創作されたものだそうです。

ウェールズ出身で家族と確執のあるゲシンを演じたのは海外ドラマ「SHERLOCK/シャーロック」のアンドリュー・スコット
ゲシンのパートナーでダンスが得意な俳優ジョナサンを演じたのは「モナリザ・スマイル」「シカゴ」にも出ているドミニク・ウェスト
  

LGSMきっての美少年で子どもたちにモテモテだったジェフ役はフレディ・フォックス。この方「三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船でルイ13世の役を演じられていた方だったのですね。髪の色が違うからか、別人みたい。
LGSM設立メンバーの中でただ一人のレズビアンステフを演じたのはフェイ・マーセイ。派手な髪型やメイクが印象的でしたが、顔立ちもとってもきれいな方です。イギリスでテレビドラマを中心に活躍されているんだとか。

ウェールズの炭鉱町

そして、ウェールズの炭鉱夫たちの組合の代表的人物ダイを演じているのはパディ・コンシダイン
炭鉱夫組合の書記クリフを演じているのが「ラブ・アクチュアリー」のビル・ナイ
クリフの妻でLGSMへ歩み寄った女性へフィーナを演じているのが「マレフィセント」等多数の映画に出演されているイメルダ・スタウントンです。
 

 

 

若手から有名俳優まで、実力者を揃えている印象がありますね。

 

感想

物語自体のドラマティックさもさることながら、この映画の魅力といえば音楽なのかもしれません。冒頭のリパブリック賛歌に始まり80年代のクラブ・サウンドや、ウェールズの女性たちが声を上げる「Bread and Roses」など、映画の各所に素晴らしい音楽が散りばめられています。

画面の美しさや音楽で、明るい印象や入り込みやすさを出しながらも、内容はしっかり社会派っぽく作り込まれている。しかし説教くさい部分はなくて見終わった時には爽快感すらあるというとても魅力的な映画でした。

 

1980年代後半のイギリスを知ってみたい方、実話をもとにした映画が好きな方、性的マイノリティや労働者の権利について知りたい方にオススメ。だけど、性的マイノリティや労働者に興味なんかないよって方にも是非見ていただきたい一本です。
エンドロールの前に流れる、主要人物達のその後も見逃せません。