Movie Journal

映画と国内外ドラマの鑑賞録です。基本的にネタバレ。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (99pt)

2011年 アメリカ ドラマ

 

9.11同時多発テロによってワールド・トレード・センターで父を亡くした少年が、父の残した鍵だけを手掛かりに鍵穴を探しまわるお話。

 

9.11アメリカ同時多発テロ

2001年9月11日にアメリカで同時発生した4つのテロ事件です。4機の飛行機がハイジャックされ、そのうち2機がニューヨークのワールド・トレード・センタービルへ激突し爆発、炎上。もう1機はワシントンD.C.ペンタゴン(国防総省本庁)へ突入。最後の1機は目標に到達することなく地上へ墜落しました。
ワールド・トレード・センタービルは北棟・南棟の2棟からなる超高層ビルで、このビルに飛行機が突入・火災や爆発が起こったことでビルが倒壊、その影響で敷地内にあった他のビルも倒壊し2,700人以上の人が犠牲になりました。ペンタゴンでは飛行機の乗客も含め200人以上の人が亡くなっています。そして、墜落した4機目の飛行機に乗っていた人も全員亡くなっています。

犠牲者の数が格段に多かったこともあり、当時未曾有の人災として世界的な大ニュースとなりました。そしてこの事件が後に起こるイラク戦争の引き金となります。現在ではワールド・トレード・センタービルの跡地には今新しいビルが建てられていて、3つが完成・3つが建設中だそうです。

この映画は、このアメリカ同時多発テロ父親を亡くした少年が主人公となっています。

 

スタッフ

原作はジョナサン・サフラン・フォアによる同名小説です。

監督を務めたのは「リトル・ダンサー」「愛を読むひと」のスティーブン・ダルドリー。脚本を務めたのは「フォレスト・ガンプ 一期一会」「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」のエリック・ロス
   

音楽を担当したのは「英国王のスピーチ」「グランド・ブタペスト・ホテル」「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」など数々の作品を手がけているアレクサンドル・デスプラです。作品が始まる部分のピアノ曲がすごくきれいで印象的でした。
  

衣装デザインは「イングリッシュ・ペイシェント」「マンマ・ミーア!」「愛を読むひと」のアン・ロスが担当しました。主人公のオスカー少年がカジュアルなようでなかなかオシャレな格好をしていたと思います。基本革靴だったような。そして最後のセントラル・パークのシーンの服装で黒いソックスに革靴・半ズボンを履かせていたのが印象的でした。品の良い、愛され少年ルックです。

 

キャスト

主人公のオスカーを演じたのはトーマス・ホーン。彼はクイズ番組に出演していたところプロデューサーの目に止まり本作のオーディションを受けることになったそうです。医者の両親の元に生まれ、彼自身も聡明な少年だったみたいです。その後別の映画に1本出ているくらいで現在は特に俳優業をしているわけでもなく、大学生活を送っているようです。

オスカーの父親を演じたのは「フィラデルフィア」「フォレストガンプ 一期一会」「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のトム・ハンクス。私は彼を、記憶の中でラッセル・クロウとごっちゃにしがちです…
そして母親を演じたのは「あなたが寝てる間に…」「デンジャラス・ビューティー」のサンドラ・ブロックです。
   

コヨーテ・アグリー」のジョン・グッドマン、海外ドラマ「殺人を無罪にする方法」のヴィオラ・デイヴィスが出ていたのが嬉しかったです。
 

 

感想

悲しみの受け入れ方
もしも太陽が爆発しても僕らは8分間気づかない。
光が地球に届くにはそれだけかかるから
その8分間世界はまだ明るく
変わらずに暖かい。
 
パパが死んで一年が経つ。
僕とパパとの8分間が終わっていく。

というセリフにある通り、太陽の爆発(父親の死)から世界がそれを知るまで(少年がそれを受け入れるまで)の"8分間"を表した映画です。 ちなみにこのセリフは吹き替え版。

この映画に登場する人物というのはそれぞれがすごく魅力的です。それは、アスペルガー症候群の疑いをぬぐいきれない少年の純粋さだったり、彼の情緒面を育むために「ニューヨークの失われた第6区探し」をさせる父親ユニークさだったり、それを見守る母親の愛情だったり、通りを挟んだマンションからトランシーバー通信をしてくれる祖母の優しさだったりします。そしてそれは少年が「鍵穴探し」で出会う数々のブラックさんたちだったり、口を開かない間借り人だったり。とにかく魅力的。そんな人物たちと出会うことで成長し、父を亡くしたことによる悲しみを受け入れていく少年の姿が描かれた作品です。物語で言及はされていませんが繊細な少年が同時多発テロによって引き起こされたPTSD(とまでは言わないのだろうか)を乗り越えるお話でもあるような気がします。

テーマはすごく重く、悲しいものですが少年を始め登場人物のキャラクターやエピソードが全体的に優しいので悲惨さを中和していて非常に良い作品に仕上がっています。少年にすごく共感したのか、私は見ている間ほとんど泣きっぱなしでした。悲しくて、辛くて、人の暖かさを感じ入ってしまって。1月にして2017年の「もっとも泣いたで賞」に決まりそうです。

画面と音楽の美しさ

ニューヨークの街を舞台に、少年は「鍵穴探し」をするわけですが全編通して画面が美しいです。オレンジ色の電球や太陽光に照らされた自宅の映像も、白い息が見えそうな冬のニューヨークの映像もその全てが美しい。そしてアッシュブラウンの髪に鮮やかな水色の瞳をしたオスカー少年もすごく美しいです。この水色の瞳はおじいちゃんと一緒で、それがまた見ていて嬉しかったりしました。

この美しい映像とともに流れてくる音楽もまた美しく、映画を引き立てています。上述しましたが、特に冒頭部分のピアノ曲がすごくきれいです。それ以外の音楽も静かなのですが美しく、そして力強いです。

タイトルの意味

見た人の感じ方により様々な解釈がされているこの作品タイトルですが、原題をほぼ直訳したものです。原題は「Extremely Loud & Incredibly Close」。これは最後に登場する、少年が今回の調査探検をまとめた「調査探検報告書」の表紙にも記載されていました。

なのでこれは調査探検を通して少年が感じたこと、なのではないかと。「ものすごくうるさい」というのはニューヨークの街の雑踏や騒音に感じた恐怖であり、「ありえないほど近い」というのは触れ合った人たちに対して少年が感じたこと。近いというのは「close」なので距離的に近いという意味ではなく「心理的に近い」「身近」というニュアンスだろうと思います。
アスペルガー症候群の疑いのある彼はきっと「共感」が苦手なのです。物語の中でもなんでも理屈で考えようとして癇癪を起こしていました。そんな彼が人を「身近に感じる」というのはすごく難しいことだと思うので、この「ありえないほど近い」というのにも納得でした。彼の気持ちがすごくよくわかる、的確な表現だなと。

私の説明では伝わりづらいと思いますが、なんとなくでも伝わっていればいいなと思います…すみません。

好きなセリフ
鍵があるなら必ず鍵穴はある
名前があるなら必ず人はいる

 

まとめ

重いテーマではありますが、よく作り込まれた映画だと思います。私はすごく好き。当時彼のような思いをした人がアメリカには何千人もいたんだろうなというのも率直な感想で。それもまたすごく心にズーンとくるものがありました。

この少年の気持ちがいまいちわからないという人にとっては楽しめない映画かなと思います。ある程度アスペルガー症候群に理解がないと彼は「タンバリン持ってキレまくる理屈っぽいガキ」なので、共感は難しいかなと思いました。ただハマる人にはこの少年の純粋さや不器用さが、すごくハマると思います。

 

こんな映画もどうですか?

2016年もっとも泣いたで賞はこの作品 

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アレクサンドル・デスプラが音楽を担当しています 

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トム・ハンクス出演作

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私がトム・ハンクスとごっちゃにしてしまいがちなラッセル・クロウが演じている父子の物語。こちらはパパと娘。

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